拡大(帯なし)
拡大(帯なし)

「国家英雄」が映すインドネシア

編著者:山口裕子・金子正徳・津田浩司


ジャンル:文化人類学/地域研究
A5判(タテ210mm×ヨコ148mm) 上製本 333頁
定価:本体4,000円+税
ISBN 978-4-89618-066-4 C3030
2017年3月31日発行
装幀:菊地信義


インドネシアの独立と発展に貢献した人物をたたえる最高位の称号、「国家英雄」。1万3千もの島々に、千を超える民族集団を擁する国家として独立してから70年あまり、生まれながらの「インドネシア人」が国民の大多数を占め、民主化と地方分権化の進む今となってもなおインドネシアは、なぜ「英雄」を生み出し続けるのか。 国民創設期に誕生した国家英雄制度は、国民統合に向けて変容を重ね、高度に体系化されてきた。その歴史と認定された英雄、認定をめざす地方や民族集団の運動に光を当てる。

「序章」より
国家英雄制度は多様な性質を示しながら今まさに進行中の過程である。各地で地元の「 英雄 」を見いだして殿堂入りを果たそうとする運動はまだ衰える気配はない。そこから浮かび上がるのは、今日この制度が、少なくとも1年に1度ネーションやナショナリズムについて人々に再考させる機会や装置としてうまく働いており、それに地方や民族集団が決して一元的ではない方法で応答しているという様相である。本書では、運動を推進し、人々をそれへと向かわせるドライブを、 国家と地方の歴史過程、民族集団の構成、宗教、地方資源と開発の状況などの諸変数を視野に検討していく。「 国家英雄 」への注目は、このように独立宣言から70 年あまりを経て成熟期を迎えた多民族国家における国家と諸集団間のダイナミックで多元的な歴史的関係に迫るための参照枠組みとなる。

▶︎目次:[ ]内は執筆者
序章 英雄大国インドネシア
1章 未完のファミリー・アルバム――東南スラウェシ州の、ふたつの英雄推戴運動 [山口裕子]
2章 新たな英雄が生まれるとき――国家英雄制度と西ティモールの現在 [森田良成]
3章 民族集団のしがらみを超えて――ランプン州における地域称号制度と、地域社会の課題 [金子正徳]
4章 「創られた英雄」とそのゆくえ――スハルトと1949年3月1日の総攻撃
 [横山豪志]
5章 偉大なるインドネシアという理想ムハマッド・ヤミン、タラウィの村からジャワの宮廷まで(ファジャール・イブヌ・トゥファイル)
6章 「歴史をまっすぐに正す」ことを求めて――国家英雄制度をとおした、ある歴史家の挑戰 [津田浩司]
7章 「国家英雄」以前――「祖国」の創出と名づけをめぐって [加藤剛]

 



▶︎執筆者プロフィール(略歴は本書刊行時のものです)


■山口裕子(やまぐち ひろこ)
1971年生まれ。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了、博士(社会学)。北九州市立大学文学部・准教授。社会人類学。インドネシアの東南スラウェシ地方の政治社会状況と歴史語りの変化について研究している。近年では国際労働力移動への関心から、滞日インドネシア人ムスリムの暮らしと日本のハラール産業の調査も行っている。
主な著作に『歴史語りの人類学――複数の過去を生きるインドネシア東部の小地域社会』(世界思想社 2011年)、『共在の論理と倫理――家族・民・まなざしの人類学』(共編著 はる書房 2012年)、「グローバル化、近代化と二極化するハラールビジネス――日本のムスリム非集住地域から」阿良田麻里子編『文化を食べる、文化を飲む――グローカル化する世界の食とビジネス』(ドメス出版 2017年)

■金子正徳(かねこ まさのり)
1972年生まれ。金沢大学大学院社会環境科学研究科修了、博士(文学)。人間文化研究機構総合人間文化研究推進センター・特任助教(2017年4月から)。文化人類学。
主な著作に『インドネシアの学校と多文化社会―教育現場をフィールドワーク』(風響社 2011年)、「コラージュとしての地域文化――ランプン州に見る民族から地域への意識変化」鏡味治也編『民族大国インドネシア――文化継承とアイデンティティ』(木犀社 2012年)、「婚姻に見る民族集団間関係とアダット(慣習)――インドネシア・ランプン州プビアン人社会の事例から」『国立民族学博物館研究報告』32巻3号(2008年)、「アダット(慣習)とクブダヤアン(文化)――インドネシア・ランプン州プビアン人社会における婚姻儀礼の事例を中心として」『文化人類学』72巻1号(2007年)などがある。

■津田浩司(つだ こうじ)
1976年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了、博士(学術)。東京大学大学院総合文化研究科・准教授、文化人類学。東南アジア島嶼部(主にインドネシア)の華人社会における文化・宗教・伝統などをめぐる再編過程について、人々の生活に密着した場から研究している。
主な著作に『「華人性」の民族誌―体制転換期インドネシアの地方都市のフィールドから』(世界思想社 2011年)、「バティックに染め上げられる『華人性』」鏡味治也編『民族大国インドネシア――文化継承とアイデンティティ』(木犀社 2012年)、『「華人」という描線――行為実践の場からの人類学的アプローチ』(共編著 風響社 2016年)などがある。

■森田良成(もりた よしなり)
1976年生まれ。大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程修了、博士(人間科学)。大阪大学大学院人間科学研究科・特任研究員、大阪大学、摂南大学ほか非常勤講師、文化人類学。インドネシア、西ティモールの社会と経済について、またティモール島国境地帯における人とものの移動について研究している。
主な著作に「受け継がれた罪と責務」鏡味治也編『民族大国インドネシア―文化継承とアイデンティティ』(木犀社 2012年)、「『ねずみの道』の正当性――ティモール島国境地帯の密輸に見る国家と周辺社会の関係」『白山人類学』第19号(2016年)などがある。映像作品として『アナ・ボトル――西ティモールの町と村で生きる』(森田良成・市岡康子編集 43分 2012年)がある。

■横山豪志(よこやま たけし)
1969年生まれ。京都大学大学院法学研究科博士課程政治学専攻単位取得満期退学、修士(法学)。筑紫女学園大学文学部アジア文化学科・准教授、比較政治学。ナショナリズムや民主主義など、インドネシアの国家や権力の正統性原理をめぐる事象を研究している。
主な著作に『東南アジア現代政治入門』(共編著 ミネルヴァ書房 2011年)などがある。

■ファジャール・イブヌ・トゥファイル(Fadjar Ibnu Thufail)
1967年生まれ。ウィスコンシン大学マディソン校博士課程修了、博士(人類学)。インドネシア科学院・上席研究員、文化人類学・東南アジア地域研究。インドネシアを中心に、社会的過程で民族イメージが構築される様を批判的に研究している。近年は、科学技術やアニメーションなどをめぐって、日本と東南アジア地域間の技術者の移動やイメージの流通過程を歴史的にたどる研究も進めている。
主な著作にKegalauan  Identitas: Agama, Etnisitas,  dan  Kewarganegaraan  Pada  Masa  Paska  Orde  Baru(共編著 Grasindo Publisher 2011年)、“Ninjas  in  Narratives  of  Local  and  National  Violence in Post-Soeharto Indonesia” Mary Zurbuchen編  Beginning to Remember: The Past in the Indonesian Present(University of Washington Press 2005年)などがある。

■加藤剛(かとう つよし)
1943年生まれ。コーネル大学大学院(Ph.D.)。京都大学名誉教授。比較社会学、東南アジア研究。
主な著作に「グローバル支援の歴史的位置づけ――『開発援助』の生成と変容」信田敏宏・白川千尋・宇田川妙子編『グローバル支援の人類学――変貌するNGO・市民活動の現場から』(昭和堂 2017年)、「『開発』概念の生成をめぐって――初源から植民地主義の時代まで」『アジア・アフリカ地域研究』13巻2号(2014年)、編書に『もっと知ろう!! わたしたちの隣人――ニューカマー外国人と日本社会』(世界思想社 2010年)、訳書にベネディクト・アンダーソン著『ヤシガラ椀の外へ』(NTT出版 2009年)などがある。

【5章翻訳者】
■荒木亮(あらき りょう)
1987年生まれ。首都大学東京大学院・博士課程に在籍中。専門は社会人類学。インドネシア西ジャワ州のバンドゥンが主たる調査地。ポスト・スハルト期における地方都市の近代化や社会変容について、イスラーム文化という視点から研究している。
主な著作に「オブジェクトとしてのジルバッブ――『イスラーム復興』再考にむけた一試論」『社会人類学年報』41号(2015年)、「異国で信仰が問われるとき―再帰的近代化、あるいはイスラームのオブジェクト化に纏わる一試論」『人文学報』512(2)号(2016年)などがある。