拡大(帯なし)
拡大(帯なし)

国境を生きる

マレーシア・サバ州、海サマの動態的民族誌

著者:長津一史


ジャンル:文化人類学/地域研究
A5判(タテ210mm×ヨコ148mm) 上製本 482頁
定価:本体5,500円+税
ISBN 978-4-89618-068-8 C3039
発行日:2019年2月27日刊行
装幀:菊地信義


東南アジアに近代国家が導入される以前から、現在のマレーシア、フィリピン、インドネシアにまたがる海域を自前の生活圏として暮らしてきた海サマ。典型的な国境をまたぐ社会であった海サマ社会は、マレーシア国家に組み込まれたあと、その制度や政策とのかかわりでいかに変容してきたのか。国境は海サマにとってどのような意味を持つのか。サバ州センポルナの海上集落で幾重にもフィールドワークをかさね、開発と宗教の領域における変化を手がかりに、かれらの国家経験を探る。



▶︎目次
     はじめに
      主な地名・植民地名の日本語-原語対照表
     主な政府機関・政党・政策等の略称 日本語-原語対照表
     凡例
  序 海サマと国家・国境という課題
     1 国境社会と国家の関係をどうみるか
     2 国境社会の描き方
     3 三つの課題と研究の視座
     4 調査の概要
     5 国家という用語と地名
        近代国家とマレーシア国家
        地名表記
  一 フィールドワーク――国境社会をいかに捉えるか
     1 フィールドワークへ
     2 流動する「家族」とともに
     3 フィールドワークの3つの段階
     4 フィールドにおける経験と生の文脈


 Ⅰ 民族の生成と再編

  二 海サマとはどのような人びとなのか――国境をまたぐ民族の概要と先行研究
     1 海サマとサマ
     2 サマ研究の系譜
  三 スル海域とサバ州の歴史過程――民族の生成を中心に
     1 港市国家としてのスル王国
     2 民族の生成――祖型としてのナマコ漁民と海賊
     3 スル王国の政治システム――海のマンダラ国家
     4 スルタンとイスラーム――地上におけるアッラーの影
     5 植民地期北ボルネオの政治史――会社による統治
     6 マレーシア加盟後のサバ州の政治史――与党政党の変遷
     7 2000年センサスにみるサバ州の民族構成
  四 民族表象の変容――海賊、漂海民、イスラームの守護者
     1 民族をめぐる問い
     2 二つの表象――民族をめぐる公的な語りと日常の語り
     3 植民地北ボルネオによるバジャウ表象
     4 バジャウの再定義――独立後のマレーシアにおける民族定位とその文脈
     5 民族語りの日常的実践
     6 国境社会における民族表象のダイナミクス
 
 Ⅱ 開発過程と社会の再編

  五 地域社会の分断と政治的権威の再編成――国境の町センポルナ
     1 センポルナの概観――国境がつくるモザイク型の分断社会
     2 センポルナの人口――サマ、ブミプトラ、非国籍保有者
     3 サマと集団範疇
     4 人間分類の基準としての国籍と先住性
     5 センポルナの形成と権威の変遷
     6 スル王国からの政治的分離と権威の再編
  六 海上集落の構成と歴史――調査地カッロン村の概況
     1 村の景観と人口
     2 親族と世帯
     3 国籍の意味――村の経済と社会的分節
     4 定住化までの歴史――植民地期の海サマ
        

  七 開発と国境――「先住性」の政治と海サマ社会
     1 マレーシアの開発と国境社会
     2 開発の政治的枠組み
     3 開発過程と社会関係の再編――政治リーダーの変遷を中心に
     4 政党政治と開発の浸透
     5 カッロン村における開発の経験
     6 開発と社会的分裂
     7 国境社会の再編とアイデンティティのゆらぎ

 Ⅲ イスラーム化と宗教実践の変容

  八 サバ州におけるイスラームの制度化と権威――法・行政・教育
     1 イスラームの制度化―宗教動態の背景として
     2 サバ州の宗教状況
     3 イスラーム行政制度
     4 サバ州におけるイスラームの制度化――法・行政・教育
     5 サバ州におけるイスラーム法制の展開
     
  九 「正しい」宗教をめぐるポリティクス――海サマのイスラーム化と国家
     1 イスラーム化をめぐる国家の文脈
     2 カッロン村におけるイスラームのあり方
     3 センポルナ郡におけるイスラームの制度化と社会秩序の再編
     4 海サマのイスラーム化――再編された秩序のなかで
     5 海サマにとってのイスラーム化

  一〇 海サマの信仰と儀礼――イスラーム化にともなう宗教実践の変容
     1 宗教変容と国家
     2 「伝統的」信仰の諸概念
     3 儀礼
     4 担い手の変化と儀礼への態度の違い
     5 儀礼の衰退とその文脈

  一一 儀礼の変化――初米儀礼と死者霊儀礼をめぐって
     1 衰退する儀礼――初米儀礼マグンボ・パイ・バハウ
     2 再構築される儀礼――死者霊のための儀礼マガルワ
     3 公的イスラーム状況下での儀礼の再構築とそのメカニズム

  結び 国境社会を生きること
     1 国境社会の民族と開発
     2 イスラーム化の構図
     3 宗教実践の変容
     4 比較への展望
     
     主な登場人物
     初出一覧
     あとがき
     付録
     参考文献
     索引

▶︎著者プロフィール
長津 一史(ながつ  かずふみ)
東洋大学社会学部・准教授。1968年札幌生まれ。1992年上智大学外国語学部卒業。1998年京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程単位取得満期退学。2005年京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科より博士(地域研究)を取得。
日本学術振興会特別研究員PD(1998年から)、京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究所研究科助手(2000年から)を経て、2006年から現職。
東南アジア海域世界の社会史、海民社会の地域間比較を研究。
主な著書/『開発の社会史――東南アジアにおけるジェンダー・マイノリティ・境域の動態』(加藤剛と共編著 風響社 2010年)、『小さな民のグローバル学――共生の思想と実践をもとめて』(甲斐田万智子・佐竹眞明・幡谷則子と共編著 上智大学出版会 2016年)、『海民の移動誌――西太平洋のネットワーク社会』(小野林太郎・印東道子と共編著 昭和堂 2018年)