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挿絵(S.Prinka)
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プトゥ・スティアのバリ案内

(増補新版)

原題:Menggugat Bali

著者:プトゥ・スティア
訳者:鏡味治也・中村潔


ジャンル:文化人類学/ノンフィクション/観光
四六判(タテ188mm×ヨコ128mm) 上製本  472頁
定価:本体2,980円+税
ISBN 978-4-89618-052-7 C0030
2007年6月30日発行
装幀:菊地信義
装画:S. Prinka


インドネシアのバリ人ジャーナリストが、自らの記憶に照らしてバリ文化の変遷をたどり、開発と観光化にさらされても、爆弾テロに見舞われてもなお魅力を失わぬバリの姿を活写する。バリ人が語るバリの魂。充実した訳注を備え、バリ島文化の深層を知る格好の書。

 
「増補新版に寄せて」(鏡味治也)
 原著の出版から20年、日本語訳の出版からでも十数年が過ぎた。インドネシアの書店では今でも同書の再刷版が棚に置かれ、日本語訳はページ数の多い本になったにもかかわらず、バリ人自身の紹介するバリの本として求められ続けてきているようで嬉しい。
 この間インドネシアでも日本でも大きな社会変化があった。インドネシアの80年代から90年代前半にかけては経済成長の絶頂期で、国の中も安定し、対外的なアピールも日増しに強くなる感があった。日本でもバブル経済の余韻から、エキゾチックなアジアの観光地としてバリ島に注ぐ眼差しには熱いものがあった。
 それが1997年のアジア通貨危機のあと、九八年には長期政権を続けたスハルト大統領が退陣してインドネシアは政治変革の時代に入り、2002年と2005年にバリ島観光地で起こったテロ爆破事件が追い打ちをかけて、バリの観光は大打撃を受けたばかりか、インドネシアのイメージそのものがどこかくすんだものになってしまっている。
 バリは今どうなってしまっているのか。バリは観光だけではない、というのは著者プトゥ・スティア氏の持論だが、観光の沈滞と国内全体の政情の不安定さから、バリの人びとがこれからどのようなバリをつくりあげていくのか、その模索期に入っていることは疑えない。そのなかでどのような動きが見られるかは、今回新たに書き下ろされた章で著者がその一端を紹介している。
 著者のスティア氏は、現在もジャカルタに本拠を置くメディア・グループ「Tempo」の編集委員を務めながら、各種週刊誌や新聞に旺盛に寄稿し続けるいっぽう、ヒンドゥー教徒としての活動にも力を入れ、バリの出身地の村にアシュラムを作って運営したり、デンパサールに出版社を創設してヒンドゥー教関連の本を中心に出版するなど、精力的な活動を続けている。
 著者のバリに対する熱い思い、誇りと自負、あえて苦言を呈する批判的精神はいまだ健在である。そうした目で見たバリの躍動的な姿を、この新版からも読み取っていただければ幸いである。

▶︎目次
日本の読者へ

1   バリへの序章
2   バリの暦と日の吉凶
3   バリ建築と儀礼用具の変遷
4   火葬儀礼
5   バリの伝統的な賭博
6   魔女と妖怪
7   消えゆく民衆演劇アルジョ
8   民衆演劇卜ペン、ジャンゲル、ドラマ・ゴンの歩み
9   バリの現代文学と伝統文学
10  バリ・ポップス
11  観光事業化される彫刻工芸
12  バリ絵画と美術館建設
13  クタ村の観光問題
14  トゥルニャン村の観光問題
15  トゥンガナン村の観光化
16  チャンディ・ダサのアシュラムと観光
17  バリ人の名前とイスラーム教徒、キリスト教徒
18  現代のヒンドゥー教
19  爆弾テ口事件以後のバリ

訳者あとがき/増補新版に寄せて


▶︎著者プロフィール
プトゥ・スティア(Putu Setia)
1951年、インドネシアのバリ州タパナン県プジュンガン村に生まれる。
デンパサール記者専門学校を卒業し、1974年に日刊紙「バリ・ポスト」の記者となる。1978年から週刊誌「テンポ」の記者、ヨクヤカルタの支局長、ジャカルタ本局の記者、運営委員などを歴任する 。                        
1986 年に『Menggugat Bali バリを告訴する』(本書)を著し、大きな反響を呼ぶ。続刊の『Mendebat  Bali  バリを議論する』(2002年)、『Bali yang Meradang  バリは怒っている』(2006年)と合わせて、バリの文化をめぐる3部作とされる。
2006年からバリに戻るが、現在もジャカルタに本部を置くメディア・グループ「Tempo」の編集委員を務め、「テンポ」「コーラン・テンポ」等に寄稿。ヒンドゥー教徒の指導・教育にも力を注ぎ、故郷にアシュラムを作り、デンパサールにヒンドゥー教関連の出版社を創設するなど活躍している。


▶︎訳者プロフィール
鏡味治也(かがみ はるや)
1954年、名古屋市に生まれる。東京大学大学院社会学研究科博士課程中退、博士(学術)。金沢大学人間科学系・教授、文化人類学。
主な著作に『キーコンセプト 文化』(世界思想社  2010年)、『バリ島の小さな村で』(洋泉社  2004年)、『政策文化の人類学』(世界思想社  2000年)などがある。

中村潔(なかむら きよし)
1956年、東京都に生まれる。東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得満期退学。新潟大学人文学部講師、助教授を経て、2001年より教授。専門は文化人類学、地域研究(バリ島)。
共著に、(古屋均、鏡味治也)『バリ――華花の舞う島』(平河出版社、1992年)、
共編著に、(吉田禎吾、河野亮仙)『神々の島バリ』(春秋社、1994年)、(杉島敬志)『現代インドネシアの地方社会――ミクロロジーのアプローチ』(NTT出版、2006年)などがある。

(略歴は刊行時のものです)