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オランダ人「慰安婦」ジャンの物語

原題:50 Years of Silence

著者:ジャン・ラフ=オハーン
訳者:渡辺洋美
解説:倉沢愛子


ジャンル:自伝/現代史/慰安婦問題
四六判(タテ188mm×ヨコ128mm) 上製本 222頁
定価:本体2,200円+税
ISBN 978-4-89618-023-2 C0023
1999年3月20日発行
装幀:菊地信義


第二次世界大戦下のインドネシアで、日本軍によって「慰安婦」にされた体験が、50年の沈黙のあと、自分の生全体でとらえられ語られることによって、豊かなふくらみをもつ物語を生んだ。著者は1992年に名乗り出たあと、東京で開かれた国際公聴会で証人となり、その後も意欲的に証言活動を続け、2019年にオーストラリアで96歳の生涯を閉じた。


「訳者あとがき」より
1992年12月、東京で開かれた国際公聴会で、ジャン・ラフ=オハーンさんは証人となって、自分の「慰安婦」体験を語っている。だが、ひとりの個人にしてみれば、「慰安婦」にされた事実だけ切り取って、人目にさらされるのは不本意なことだろう。それではまるで人生の敗者の烙印を押されたようなものではないか。その体験は自分の生全体のなかでとらえるしかない。しかも語った結果、人生に受け入れられていると実感することができなければならない。彼女の証言は、最終的にこうして豊かな膨らみを持った物語に開花して、広く一般の人に読まれるのを待っているのである。



「感謝のことば」より
 この物語を書くよう励まし、惜しみなく支援してくれたアイリーンとギャリー、キャロルとネッド、フィーンとセレスト。理解を示してくれた夫のトム。かぎりない思いやりを見せてくれたオハーン家の人たちとルーケとフレーケ。援助と激励をいただいた〈オランダ対日道義補償請求財団〉、とくにシュールド・ラブレー。編集担当のエリザベス・ビューテルと発行人のトム・トンプソン。
 最初に勇気をもって名乗りを上げ、この物語を公表する勇気をわたしに与えてくれた韓国の元「慰安婦」の人たち。
 以上のかたがたに感謝をささげます。
                          ジャン・ラフ=オハーン

▶︎目次
ジャワ島のしあわせな日々

スマランの娼館 

沈黙の始まり 

50年の沈黙を破って

 

 

▶︎著者プロフィール
ジャン・ラフ=オハーン(Jan Ruff-O'Hherne)
1923年にオランダ領東インド、現在のインドネシアのジャワ島に生まれる。スマラン市近郊のプランテーション、チェピーリン製糖農園で、しあわせな子供時代を送る。
1942年3月の日本軍ジャワ侵攻に伴い、母や妹たちとアンバラワ収容所に抑留される。44年2月から約2カ月間、17歳以上のオランダ人女性35人と共に、スマランの日本軍慰安所の「慰安婦」であることを強いられる。
終戦後、1946年にイギリス人トム・ラフと結婚、14年間イギリスに住んだあと、夫と娘二人とオーストラリアに移住、アデレードに暮らす。
1992年12月に東京で開かれた国際公聴会で、オランダ人として初めて「慰安婦」であったことを証言し、深い感動を与えた。

▶︎訳者プロフィール
渡辺洋美(わたなべ ひろみ)
大阪外国語大学中退、アイスランド大学卒業。翻訳家。
主な訳書にハルドール・ラクスネス『極北の秘教』、ロレンス・ダレル『予兆の島』(以上、工作舎)、カーレン・ブリクセン『アフリカ農場――アウト・オブ・アフリカ』『冬物語』『運命綺譚』、ヘレ・ヘレ『犬に堕ちても』(以上、筑摩書房)、著者不詳・渡辺民司編『ギスリのサガ:アイスランド・サガ』(北欧文化通信社)などがある。

▶︎解説者プロフィール
倉沢愛子(くらさわ あいこ)
東京大学卒業、慶應義塾大学経済学部名誉教授。専門はインドネシア社会史。
主な著書に『日本占領下のジャワ農村の変容』(草思社)、『資源の戦争』(岩波書店)、『インドネシア大虐殺 二つのクーデターと史上最大の惨劇』(中央公論新社、中公新書)など多数あり、共訳書にインドネシア国立文書館編著『ふたつの紅白旗――インドネシア人が語る日本占領時代』(木犀社)などがある。