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バナーラスの赤い花環

著者:上田恭子


ジャンル:ノンフィクション
四六判(タテ188mm×ヨコ128mm) 上製本 223頁(カラー口絵:細密画8点)
定価:本体2,100円+税
ISBN 978-4-89618-031-3 C0095
2003年9月10日発行
装幀:菊地信義
カラー口絵・カバー図版撮影:高安和実


著者は40歳を過ぎて一念発起し、インドに留学する。大学のある都市バナーラス(ベナレス)は、3000年の歴史ある聖地でもあった。この地で出会ったミニアチュール絵画の赤の魅力は、心温まるかたわらの人びとに似る。匂い立つばかりに綴られる、ガンガー(ガンジス河)の水に浮かぶ古都の日々。友人の家で出会った白い髪と白い髭をたくわえた人が、静かに言う。「バナーラスほど自由なところは、世界中さがしてもない、世界からも、自分自身からも自由な」と。

▶︎目次
1  迷路を生きる――ホリラルの家まで/ 夢見る人/ 陽だまりの仲間たち/ 絵のなかの河/ 死のガート
2  大空のペントハウス――ファラハール料理/ 秘めごと/ 恋人たちの空間/ 奇妙な絵/ 言葉をつかまえる
3  庭のある家――ウォーキングシューズを履く/ 食べない日/ 赤い花/ 透明な羽根/ 街を見る
4  あわいに立つ――独り者の居ずまい/ 光の方へ/ チャドルのなかの顔/ ヴェジとノン・ヴェジ
ガンガーのほとりで――あとがきに代えて

「ガンガーのほとりで」より
 夕暮れがせまってくると、バナーラスの寺院ではにぎやかな夕べの祈りがはじまる。まるで火葬場のように打ち鳴らされる半鐘と、オルガンのような音を出す楽器、ハルモニウムに伴われて唱和されるご詠歌のような宗教歌バジャン。ガンガー沿いの寺ではそこだけが明々と照明され、動きのない人びとのなかにひとり明かりを背に、河に向かってオイルランプを大きく振り回し献灯の儀をする僧がくっきりと浮かぶ。闇を照らして、降り立つ神をたたえるのである。
 町中は、夕闇をぬってそぞろ歩く人々でにぎわっているにちがいない。明かりをつけた店々も追々、店じまいの準備に入り、同じように献灯の儀式をおこなって一日を終える。そしてあしたも、今日と同じように明け、暮れていくだろう。


▶︎著者プロフィール
上田恭子(うえだ きょうこ)
1945年、福岡県に生まれる。女子美術大学を卒業。出版社勤務ののち、フリーランスで書籍・雑誌の編集・製作にたずさわる。1993年から94年にかけて、インド・ウッタルプラデーシュ州バナーラスの国立バナーラス・ヒンドゥー大学インド美術史学部に留学。1年間の滞在後、仕事のかたわらインド美術の研究をつづける。